脳科学者による脳卒中体験レポート
今回は、ジル・ボルト・テイラー博士の『奇跡の脳』をご紹介します。
本書は、脳科学者による脳卒中体験レポートです。
脳科学者である彼女自身が、脳卒中になってしまったのですね。
著者のテイラー博士が脳に興味を持ったのは、統合失調症の兄を理解したいという思いがきっかけ。
脳科学者として、また、重い精神疾患を抱える患者とその家族を支援する組織(NAMI)の最年少理事としても奔走する毎日を送っていたテイラー博士。
NAMI(the National Alliance on Mental Illness)
ある朝、脳に突き刺すような痛みを感じたテイラー博士は、自分の身に起こる様々な異変を学者の目で冷静に観察します。
ほどなく、自身が脳卒中になったことに気付きます。
そのときにふと思ったことは、
あぁ、なんてスゴイことなの!
脳の異常を自分で観察するという稀有な体験ができるんだわ!という学者ならではのちょっとおかしい反応ですね(笑)。
救急連絡をしようとしますが、脳卒中でうまく助けを呼べません。
いろいろなことが出来なくなっていく過程、
音や光に対して異常なまでに過敏になること、
左脳での脳卒中で言語機能が低下していく様子、
術後のリハビリによる回復過程、
などなど。
テイラー博士にどんなことが起きていたかをつぶさに記録しています。
睡眠が大事だったこと、それから、脳卒中患者にどのように接したら良いかも参考になります。
開頭手術が成功し、母と2人3脚のリハビリを頑張って、職場復帰を果たすテイラー博士。
素晴らしいですね。
ここまでが前半。
気になる右脳信奉傾向?
後半の記述は私(武永)から見るとやや気になってきます。
訳者の竹内薫氏も以下のように書かれています。
本書の前半部分は、脳科学者の目から見た脳卒中の発症と手術とリハビリの様子が、生々しいタッチで描かれています。ところが後半になると、ムードが一転し、「右脳マインドのススメ」とでもいうべき内容になります。
テイラー博士は左脳の脳卒中だったそうで、涅槃の境地に似た解放感など、全く違う感覚を得たのだとか。
どうやら、
左脳の脳卒中
↓
左脳の機能停止
↓
右脳の機能が顕在化
ということで、新しい感覚が右脳のお陰!大事なのは右脳よ!とテイラー博士には思われたのも無理はないかもしれません。
左脳を「常に分析し、批判的になり、柔軟さに欠ける」とするなど、マイナスイメージで表現。
その一方、右脳マインドは「平和と愛の心」として、
右脳はとにかく、現在の瞬間の豊かさしか気にしません。それは人生と、自分に関わるすべての人たち。そしてあらゆることへの感謝の気持ちでいっぱい。右脳は満ち足りて情け深く、慈しみ深く、いつまでも楽天的。右脳の人格にとっては、良い・悪い、正しい・間違いといった判断はありません。
とのこと。
もちろん、テイラー博士も左脳は要らないというわけではなく、
左の脳は、情報をまとめる面では宇宙の中で最も優れた道具です。
とも書かれてはいますが。
ただ、
右脳マインドは、すべての細胞が母親の卵細胞と父親の精子細胞が結ばれてできた細胞であり、どれもが天才的な資質を持つ五十兆もの細胞の生命力によって巧くつくられていることを知っています!
とか、
右脳マインドは、宇宙が織物のように複雑にからみあい、お互いを結びつけていることを理解しています。そして自分のドラムのビートに合わせて熱狂的に行進するのです。
さらには、
右脳は、長い波長の光を知覚します。 (大雑把に見るという意味?)
とまで言われると、大丈夫かな?と心配になってきます。
訳者の竹内薫氏は、
本書はこれまでタブー視された領域に果敢に科学のメスを入れたと評価できるでしょう。
と書いていますが、「科学のメス」ではなく、科学者の所感に過ぎないと思います。
ご自身の貴重な体験ではあるのですが、左脳に脳卒中が起きたからといって、左脳全体が機能しなくなったわけではありません。
脳卒中後の新たな感覚は、左脳の脳卒中が起きた以外の領域の機能が顕在化した結果かもしれないのですが、そのような検討はされていません。
「平和と愛の心」なる右脳マインドで表現される内容自体には同意するのですが、それを安易に右脳に根拠を求めないで欲しいわけです。
だからと言って、読むに値しないと切り捨てたいわけではありません。
脳科学者ならではの観察は貴重ですし、右脳/左脳議論以外で得られることも多いと思います。
文庫版も出ておりますし、ご一読をお勧めします。
テイラー博士のTEDトークもどうぞ。
脳科学でビジネスライフを快適に!
では、また!
(了)
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