脳科学は神経科学の一部
「脳科学」という言葉は、研究者の間ではあまり使われません。
日本でも欧米でも、学会で流通している言葉は、「脳科学」ではなく「神経」です。
脳の主役はニューロン(神経細胞)ですが、ニューロンは脳だけでなく全身に張り巡らされています。
脳におけるニューロンの役割というと、コンピュータみたいな情報処理のイメージが強いかもしれません。
そもそも、ニューロンには遠くまで速く情報伝達をする役割があります。
脳に入る情報としては、目・耳・皮膚・内臓などで得た感覚情報をニューロンが脳に送っています。
また、脳から出る情報としては、手足を動かすための情報などをニューロンが脳から筋肉に送っています。
脊髄損傷で手足が麻痺するのは、脳からの指令を伝えるニューロンがダメージを受けて死滅するからですね。
そういう意味では、脳科学は神経科学の一部であると言えます。
個々の脳科学者は脳全体を研究対象にしてるわけではない
世間的に脳科学者と分類される研究者の中には、ニューロンの基本的な性質を研究している人もいます。
彼らは脳だけのことを知りたいわけではないので、脳だけを切り離した「脳科学」という言い方に違和感があるのもうなずけます。
自分は脳科学者などではなく神経科学者だと言うことでしょう。
一方で、脳を研究している個々の脳科学者は、脳全体を研究対象にしてるわけでなく、脳の中の非常に狭い部分のことを研究しているに過ぎません。
脳科学というと、脳全体の科学という響きがあるため、自分を脳科学者だと名乗るのはおこがましいと考える向きもあります。
もう少し言うと、脳にはニューロンだけでなく、グリア細胞や血管もたくさんあって、ニューロンの研究者はそれらのことについては専門ではないワケで、脳全体を知っているなんてとても言えない、ということになります。
物理学者とは?
ところで、同じ科学分野でも、物理の方はどうなっているでしょうか?
半導体の研究者は、自分を物理学者と名乗るのにそれほど抵抗はありません。
と言いますのも、私(武永)は、学生時代は物理の研究をしており、物理の博士号を持っていますので、物理業界のことも現場感覚でわかるのです。
半導体の研究者が、自分は宇宙論やカオスの話とかは分からないからと言って、自分を物理学者だと名乗るのはおこがましいなんて思いません。
もしかしたら、物理法則は全宇宙に通ずと物理帝国主義のような感覚があるからかもしれませんが。
マスコミで多用される「脳科学」という言葉
だとすると、脳の一部を研究している学者が、自分の肩書きを脳科学者としてもさして問題はないはずです。
なのに、自分を脳科学者と言うのを憚るのはなぜでしょうか。
実は、「脳科学」という言葉を研究者の業界内で使う機会がない一方で、マスコミでは異様に多用されているという特殊事情も原因の一つであると考えられます。
マスコミへの露出が高い研究者は、昔ほどではないにしても、今でも研究者仲間では覚えの良いものではありません。
ということもあって、マスコミが使う「脳科学」なんて使いませんよ、というわけです。
研究者も積極的に情報発信を
それはそうとして、世間に溢れる疑似科学を放置してしまったり、ちゃんとした研究成果の啓蒙に無頓着であってはいけません。
自分の専門から少しでも外れると身を引く謙虚な態度を否定するつもりはありません。
ただ、それが度を過ぎてしまうと、社会との乖離を招きます。
科学行政が一般のレベルで議論される昨今ですから、研究者が無関心では通らないのです。
自分の狭い専門分野だけのコミュニティにとどまるのは楽なこと。
責任範囲を狭くして楽な世界に籠っているだけになっているとしたら残念です。
今や、個人が簡単にメディアを持てる時代。
SNSやブログで手軽に情報発信できますから、研究者も学術論文を書くばかりでなく、自分の研究成果を簡単に紹介したり、世間に溢れる疑似科学などにもう少し注意を払って、必要があればSNSなどでコメントするくらいの気概を持ちたいたいものです。
前回に引き続き、またまた、自戒の念を込めて。
脳科学でビジネスライフを快適に!
では、また!
(了)
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