覚醒剤はドーパミンをだだ漏れ状態にする

投稿者: | 2016年10月22日

 

芸能人やスポーツ選手にとどまらず、歌のお兄さんまでもが手を染めた覚醒剤。

どうして止められないのでしょうか。

覚醒剤は脳で一体どのように作用しているのでしょうか。

その辺りを書いてみたいと思います。

 

快楽とドーパミン

快楽を感じているときには脳内でドーパミンが出ている、という話は人口に膾炙しているようです。

ときどき間違う方がおられますが、ドーパミンはホルモンではありません。

ホルモンは、脳下垂体や副腎などから放出され、血液に乗って、心臓や腎臓といった遠くの標的器官で受け止められて作用を発揮する生体分子のこと。

例えば、副腎皮質ホルモン(ステロイド)、成長ホルモン、メラトニン、インスリン、アドレナリン、ノルアドレナリン、テストステロン、エストロゲンなどなど。

ドーパミンも、正確に言うと、ホルモンとして働くこともちょこっとだけありますが、かなりマイナーですので、ホルモンとは覚えない方がよいでしょう。

 

では何か。

神経伝達物質の一つです。

神経細胞(ニューロン)は情報を高速に伝える細胞ですが、ニューロンとニューロンの間には、ほんの僅かな隙間があります。

送り手のニューロンがその隙間に神経伝達物質を放出して、それが受け手のニューロンの受容体にくっつくことで、ニューロンからニューロンへ情報の伝達がなされます。

快楽を感じるのは、ドーパミンが放出されて神経情報がやり取りされる過程です。

 

放出された神経伝達物質は素早く処分される

ところで、コンピュータの処理速度を速くするには、スイッチング素子の切替速度を速くします。

それと似ていて、脳も情報処理を素早くするための工夫が素過程にあります。

その一つとして、送り手ニューロンが放出した神経伝達物質で、受け手ニューロンにくっつかなかったものは一瞬のうちに処分してしまうようになっています。

その処分には以下の2つの方法があります。

1)分解

2)放出した送り手ニューロンへの回収(リサイクル)

2)では、送り手ニューロンの細胞膜で神経伝達物質の取り込み口となるタンパク質をトランスポーターといいますが、そこから回収します。

ドーパミンを回収するタンパク質は、ドーパミントランスポーターといいます。

 

覚醒剤はドーパミンをだだ漏れ状態にする

では、覚醒剤はどう作用するのでしょうか?

覚醒剤というのは総称で、具体的な分子としてはメタンフェタミンやアンフェタミンなどです。

メタンフェタミンの分子式は、C10H15N

ベンゼン環にちょっと炭素鎖が付いた小さい分子で、血液脳関門である血管壁を容易に通過して、脳に入って作用します。

メタンフェタミン(Wikipedia)

これらの覚醒剤は、ニューロンの細胞膜のドーパミントランスポーターに取り付いて回収の仕事を妨害してしまうのです。

ただの回収妨害だけではありません。

ドーパミンの回収を邪魔しながら、本来は回収するはずのトランスポーターからドーパミンを排出し続けます。

ドーパミンがだだ漏れ状態に。。

そうなると、ドーパミンがニューロン間に漂い続けて、受け手ニューロンに情報を送りっぱなしに。

あれ? コカインの作用に似てる?

なかなか鋭いですね。

回収妨害の作用は似ていますですが、コカインの方が効き目が短いとされます。

武永隆の脳ブログ「コカインは回収口を塞いで異常をもたらす」

覚醒剤のせいで、ドーパミンが作用し続けるため、本人は強い快楽を感じます。

本来は一瞬であるはずの情報処理が延々と続いてしまうので、脳の処理としても異常な状態が続き、認知機能などにも影響が出ます。

常習により、幻覚妄想などの精神症状も現れてくるようになります。

覚醒剤は大体4日で体外に排出されるので効き目が弱くなってきます。

覚醒剤は強い快楽をもたらしてくれるわけですから、効き目が薄れてくるとまた欲しくなります。

依存性に、つまり、やめられなくなるのは、単に薬効が薄くなるだけではありません。

どうして止められなくなるのでしょうか?

 

どうして覚醒剤を止められないのか

強い依存性が覚醒剤の問題をより深刻にしています。

そのメカニズムについて見てみましょう。

覚醒剤は送り手ニューロンに作用して、ドーパミンの回収の邪魔をするのでしたね。

実は、そのせいで受け手ニューロンの細胞膜にあるドーパミン受容体も影響を受けるのです。

送り手ニューロンが放出したドーパミンを受け取るのが、受け手ニューロンにあるドーパミン受容体です。

なんと、覚醒剤が依存形成されると、受け手ニューロンの受容体が減ってしまうのです。

どうしてでしょうか?

どうやら、シナプス間にドーパミンがたくさんあるので受容体がそんなにたくさんなくてもいいね、と判断されて、自動的に受容体が減ってしまうようなのです。

覚醒剤の効果によるドーパミンの異常放出が4日くらいで収まり、正常な分泌量に戻ります。

でも、依存形成されていると、受け手ニューロンのドーパミン受容体が減っているので、健常者よりもドーパミンの伝わり方が悪くなっています。

それをよくするため、そして、覚醒剤によってドーパミンが異常放出されて異様に気分がよくなった状態に戻したくなるために、また覚醒剤が欲しくなってしまうのです。

覚醒剤の使用で脳が変わってしまって、もっと覚醒剤が欲しくなる、ということで止められなくなるのです。

興味本位でも手を出すべきではありません。

 

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では、また!

 

(了)

 

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