お客様は商品やサービスだけを見ていない
お客様が商品やサービスを購入する時、そのものの良さだけではなく、様々な情報に左右されます。
テレビでよく見るから。
昔からある大手企業の製品だから。
タレントの〇〇さんがCMをしているから。
知人の〇〇さんが勧めてくれるものはいつもいいものばかりだから。
買う気はなかったけど、店員さんがスゴく感じの良い方で気が合って買いたくなったから。
情報にはそれに付帯した情報、特に、情報ソースがバイアスとして作用し、情報の価値を左右します。
「ブランド」も権威を持った情報ソースとして機能します。
ブランドと脳の関係を見てみましょう。
コカ・コーラのイメージ戦略
ところで、コーラはお好きですか?
コカ・コーラとペプシコーラがあったら、どちらを選びますか?
何となくコカ・コーラを手にしそうなアナタ、コカ・コーラ社の戦略にはまっているのかも。
コカ・コーラ社は長年に渡って、積極的なプロモーションとブランドイメージの強化を図ってきて、優位ブランドを獲得しました。
マーケティングの世界では、コカ・コーラはイメージ戦略に力を入れてブランドを獲得した企業の代表として有名です。
気付かないうちに、アナタの脳にブランドイメージが刷り込まれていたのでしょう。
vmPFCがブランド脳である実験的証拠
ペプシパラドックスをご存知でしょうか?
コカ・コーラのブランドイメージと密接な関係があります。
ペプシパラドックスというのは、「中身が分からない状態で、コカ・コーラとペプシを飲み比べたら、ペプシの方が美味しいという人が多いのに、ブランドが分かるようにすると、コカ・コーラの方を美味しく感じる人が多くなる」現象のことです。
ペプシパラドックスと脳の関係を調べた実験をご紹介しましょう。
特定の脳領域の機能的な役割を知るのに「その領域を機能させないとどうなるか」を調べる手法があります。
実験動物ですと、頭蓋骨を開けてその脳領域を取り去ったり、一時的に神経活動を止める薬を注射したり、冷却したりして、機能させなくします。
ヒトでは、そんなことはできませんので、クモ膜下出血などで特定の脳領域が機能しなくなった患者さんに協力してもらいます。
今回の実験で対象とする脳領域は、ブランドを感じるときに活動するとされる脳領域で、いわば「ブランド脳」の腹内側前頭前皮質(vmPFC, ventromedial PreFrontal Cortex)。
脳の場所的には、おでこの真ん中のちょっと奥の辺りです。
被験者は、健常者16名の他、vmPFCに損傷のある患者さん12名、vmPFC以外で脳損傷のある患者さん16名。
そして、印のないコップで、ペプシとコカ・コーラを飲み比べてもらったところ、健常者、vmPFC損傷の患者さん、vmPFC以外損傷の患者さんのどの群もペプシの方が美味しいという人が多かった、とのこと。
ペプシパラドックスの前半部分が確認されたわけですね。
さあ、パラドックスの後半、つまり、ブランドを提示した場合はどうなったでしょうか?
まず、健常者とvmPFC以外損傷の患者さんはペプシパラドックス通りに、ペプシよりもコカ・コーラを選ぶ人の方が多くなりました。
では、vmPFC損傷の患者さん、つまり、ブランド脳を失った患者さんは??
なんと。コップに印がないときと同じように、ペプシを選ぶ人の方が多かったのです。
ということで、この実験は、vmPFC(腹内側前頭前皮質)がブランド選好に強く関係している、つまりブランド脳だというエビデンスの一つとして知られています。
【原論文】
Koenig M & Tranel D 2008)
“Prefrontal cortex damage abolishes brand-cued changes in cola preference”
Soc Cogn Affect Neurosci 3: 1-6.
doi: 10.1093/scan/nsm032
海馬とdlPFCもブランド脳
ブランド脳として知られる vmPFC ですが、もともと感覚的な好みに反応する脳領域として知られています。
ですから、実際に感覚的な違いがあるものを比較する際、感覚がブランドイメージに修飾されることで、感覚的な好みとして反応すると考えられます。
感覚的な違いをないようにしてブランドの効果を調べたら、どうなるでしょうか?
またまた、コカ・コーラ vs ペプシのコーラ飲み比べでブランドの効果を調べた実験があります。
論文が掲載された学術雑誌は超一流の Neuron 誌。
印なしのコップで、中身はペプシ
vs
ペプシ印のコップで、ペプシ
印なしのコップで、中身はコカ・コーラ
vs
コカ・コーラ印のコップに、コカ・コーラ
のそれぞれで、印なしのコップとブランドの印があるコップのどちらが美味しかったかを答えてもらいました。
すると、中身がペプシだと、コップに印があるかどうかは関係ありませんでした。
ところが、コカ・コーラでは、印がある方が美味しいとの回答が多かったそうです。
客観的に、味だけで評価していれば、それぞれ中身は同じですから、コップの印に左右されることはないはずです。
しかし、コカ・コーラの場合はそうではなかった。
脳がブランド情報を加味してバイアスをかけ、味覚を変えたのです。
このとき、脳の活動はどうだったでしょうか?
コカ・コーラ印のコップでコカ・コーラを飲んで美味しいと感じたときだけに活動が強かった脳領域が見つかりました。
それは、海馬と背外側前頭前野(dlPFC, dorsolateral PreFrontal Cortex)。
いずれも記憶の想起にかかわる脳領域で、ブランド情報を思い出している活動だと考えられます。
感覚的な好みによる判断というよりも、背外側前頭前野と海馬が記憶を引き出しながらしっかり比較したのだと考えられます。
ということで、海馬とdlPFCもブランド脳と言えます。
【原論文】
McClure SM, et al. (2004)
“Neural correlates of behavioral preference for culturally familiar drinks”
Neuron 44: 379-387.
doi: 10.1016/j.neuron.2004.09.019
お客様のブランド脳をハックする
人は、商品やサービスそのものを判断するのではなく、それに付帯した情報、特に、情報ソースによって受け取り方を変えます。
権威を与えるブランドに触れると、ブランド脳が反応して商品やサービスの確度が高くなり、信じやすくなります。
情報がたくさん溢れていますから、イチイチ判断するのは脳も疲れます。
なので、ブランドや権威を利用して、脳が手を抜こうをしようとしているのでしょう。
なんて怠け者な、脳。。
商品やサービスを提供する側としては、良いものを提供しなければいけませんが、それだけでは選んでもらえません。
選んでもらう確率を高くするため、お客様のブランド脳をハックしましょう。
ブランド的に弱い商品やサービスは、そのままでは劣勢なので、実際に試してもらって感覚的に訴えるのが効果的でしょう。
お客様の vmPFC(腹内側前頭前皮質)を活性化させるわけです。
また、必ずしも、会社や商品がブランドである必要はありません。
提供者である販売員や接客担当者が自身の信頼度を高める、つまり、その人がブランドになった状態を作ればよいのです。
これは、お客様の海馬や dlPFC(背外側前頭前野)を活性化させる作戦です。
お客様のブランド脳をハッキングして、自身の商品やサービスを選んでもらいましょうというお話でした。
脳科学でビジネスライフを快適に!
では、また!
(了)
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