「急がば回れ」は本当だった 〜 試行錯誤の効能

投稿者: | 2016年2月18日

 

試行錯誤はしない方が楽だけど

仕事で行き詰まったり、新しいことに取り組み始めたりするときには、

「 あーでもない 」

「 こーでもない 」

と苦労しますよね。

試行錯誤というやつです。

忙しいときに、「急がば回れ」なんて言ってられませんね。

この度、試行錯誤の効能が分かる動物実験の結果が報告されましたのでご紹介します。

東京大学薬学部の池谷裕二教授らの研究です。

 

マウスの迷路学習実験

実験に使ったのは、14匹のマウス

マウスに与えるにしては、結構、複雑な迷路を解いてもらいます。

具体的には、図の左下からスタートして、右下のエサ(ペレット)まで到達する課題です。

試行錯誤1

ご覧の通り、迷路と言っても、エサに到達する経路はたくさんあります。

行き止まりを通らないとすると、以下の7パターン。

試行錯誤2

左上にある、赤線のルート1が最短コース。

右下は、行き止まりを通るルートで、7つの経路には含めません。

実験では、4つのテストをしています。

試行錯誤3

■ テスト1

図3の左端で、図1でお示しした迷路そのものをマウスに解かせます。

最初は、いろいろな経路を通りますが、そのうち、最短のルート1で迷わず行けるようになります。

■ テスト2

図3の左から2つ目で、最短のルート1のゴール直前を通行禁止にします。

すると、マウス14匹のうち、11匹はルート4を、3匹はルート2を取るようになりました。

■ テスト3

図3の左から3つ目で、テスト2でマウスが選択したルート4とルート2のそれぞれで、
一箇所ずつ追加で通行禁止にしました。

すると、テスト2でルート4を取った11匹のマウスのうち、3匹はルート7を、
8匹はルート2を取るようになりました。

また、テスト2でルート2を取った3匹のマウスのうち、2匹はルート5を、
1匹はルート4を選んだのです。

■ テスト4

テスト3では、もともと通れていた道で2ヶ所を通行禁止にしましたが、それを解除して
元の通りに戻しました。

すると、テスト3では4つのルートに分かれていましたが、どのルートのマウスも、
テスト1で選択された、最短のルート1を取るようになりました。

テスト1からテスト4で、マウスは状況によって、ちゃんと最短ルートを見付けられました。

 

最終的には「近道」だった試行錯誤

上記は、全て学習の「結果」です。

知りたいのは、学習の「過程」。

マウスは、毎日、何試行も迷路を解いてエサを食べるわけですが、全ての試行でどのように
エサまでたどり着いたかを実験者らはカメラで撮影して分析しています。

テスト1の通行禁止なしの迷路、テスト2とテスト3で一部通行禁止にした迷路、そして、再度、
もともとの通行禁止なしの迷路、と条件を変えるたびに、マウスはいろいろな経路を試して、
それぞれの条件で最短のルートを見付け出していく様子がつぶさに記録されました。

その中で、それぞれの条件で最短となるルートではなく、図1の右下にある、行き止まりを
通るルートのように、各試行でエサにたどりつくまでに試行錯誤した様子を分析しています。

その結果、最短ルートを見付けるまでの初期の段階(試行回数の最初の30%)では、
なんと、その試行錯誤が多いほど、最短ルートを見付けるまでの日数が短かったのです。

試行錯誤をもう少し詳しく2つに分けて行動をピックアップした分析もしています。

 

■ 探索型試行錯誤(Exploratory)

図1の右下のパターンですね。
とりあえず行ってみて突き当たりで、あー違ってたー、で元に戻る感じ。

 

■ 躊躇型試行錯誤(VTE:Vicarious Trial-and-Error)

結果的な軌跡としてはどれかのルートだとしても、

・交差点でちょっと立ち止まる

・そこで鼻先を他の経路に向ける

・別の経路に入りかけてすぐ戻る

などして、スムーズに行かずに躊躇するパターンです。

 

すると、どちらかというと、躊躇型より探索型の試行錯誤の方が最短ルートを見付け出す日数が
短縮される傾向が強いことが分かりました。

思い悩んで動かないより、とりあえず、動いちゃった方がより近道だ、ということですね。

さあ、こうなってくると、試行錯誤はできるだけしたくないなんて言ってられませんね。

試行錯誤は、最初は大変でも、最終的には近道なのですから。

まさに、「急がば回れ」。

腹を決めて、しっかり試行錯誤しましょう。

 

【原論文】Open Access

Iwata I, Sasaki T & Ikegaya Y (2016)
“Early Failures Benefit Subsequent Task Performance”
Scientific Reports 6, Article number: 21293
doi:10.1038/srep21293

 

おまけ

池谷教授が行動分析の論文とはやや珍しい印象です。

しかも、それで Scientific Reports にさらっと載せられるのはさすが。

遠からず、今回の結果を裏付ける脳活動の論文が出ると思いますので、楽しみにしていましょう。

 

脳科学でビジネスライフを快適に!

では、また!

 

(了)

 

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