お客さんに新しい商品やサービスの説明をする際には、分かりやすい言葉で説明しましょう、とよく言われます。
説明する側には当たり前でも、初めて聞くお客さんに説明するときは、誤解を招かないよう充分に気を配る必要があるからです。
その誤解を招く脳のメカニズムの一つを、パズルを例に取り上げながら考えてみましょう。
4枚カード問題
ちょっとパズルをお出ししてみますね。
ここに、4枚のカードがあります。そして、それぞれ、おもて面には、アルファベット(A, B, C, …)が、裏面には数字が書かれています。
そして、おもて面のアルファベットと裏面の数字の間にはルールがあって、アルファベットが母音(A, I, U, E, O)なら、その裏の数字は 2, 4, 6 といった偶数、となっています。
そこで問題です。
以下のように4枚のカードがテーブルに置かれていて片面しか見えないとき、それぞれのカードのおもて面と裏面がルール通りになっているかどうかを確かめるには、少なくとも、どれを裏返す必要があるでしょうか?
「 E 」「 Z 」「 6 」「 7 」
ちょっと考えてみてください。
この問題は、1972年に Wason と Shapiro が報告した以下の論文に載っています。
Wason PC & Shapiro D (1972)
“Natural and contrived experience in a reasoning problem”,
Quarterly Journal of Experimental Psychology 23: 63-71.
まず、「 E 」ですが、裏面がちゃんと偶数になっているかを確かめないといけませんね。奇数だとルールから外れますので。
では、「 6 」はどうでしょうか? おもて面がちゃんと母音かどうかを確認したくなりますよね。ルールを確認しておきましょう。
「アルファベットが母音(A, I, U, E, O)なら、その裏の数字は 2, 4, 6 といった偶数」
つまり、母音 → 偶数 であって、偶数 → 母音 とは限らないのです。この問題の場合は、「 6 」のおもて面は奇数であっても構わないので、確認の必要はナシ。
残るカードは「 Z 」と「 7 」。
まず、「 Z 」はどうでしょうか? アルファベットが子音のルールはありませんので、裏面の数字は偶数でも奇数でもよく 、チェックする必要はありませんね。
「 7 」はと言いますと、そのおもて面が子音なら問題ないのですが、母音ですとルールから外れることになってしまいますので、チェックする必要があります。
ということで、答えは「 E 」と「 7 」です。
上記論文によりますと、24人の大学生を被験者として実験をしたところ、「 E 」と「 6 」と答えたケースが多く、正解率は10%以下だったそうです。
いかがでしたか? 違ったからと言って、悪いわけでもありません。人はそのように考えがちだということが体感できたということです。
では、どうして、そう考えがちなのでしょうか?
人は、ルールを単純なものとして思い込むクセがあります。今回の例では、「母音 → 偶数」なのですが、「母音 = 偶数」として、「偶数 → 母音」を無意識に追加してしまうのです。
思い込みによる誤認識ですから、心理学で言う「確証バイアス」に含まれます。
お酒問題
4枚カード問題のようなトリッキーで特殊な状況はないよ、と思われるかもしれませんね。
ところが、どっこい。問題の形式はそのままでも、状況を変えただけで正解率が格段に上がってしまいます。
やってみましょうか。
先ほどのルールで、「母音」と「偶数」を以下のように別の内容に置き換えてみましょう。
「母音」=「お酒を飲んでいる」
「偶数」=「20歳以上」
ルールとしては「お酒を飲んでいる」なら「20歳以上」ということですね。
そこで、以下の4人の誰をチェックしたらよいか、考えてみてください。
甲さん「年齢不詳でビールを飲んでいる」
乙さん「年齢不詳でコーラを飲んでいる」
丙さん「何かを飲んでいる25歳」
丁さん「何かを飲んでいる18歳」
いかがでしょうか?
甲さんは、ビールを飲んでいるので年齢確認が必要。
乙さんは、コーラなので何歳でもOK。
丙さんは、25歳で20歳以上なので、何を飲んでもOK。
丁さんは、18歳で20歳以下なので、お酒を飲んでいないかチェックしないといけません。
ということで、答えは「甲さん」と「丁さん」。
ね? 今度は簡単でしたよね。
このお酒問題は Griggs と Cox が1982年に実験していまして、正解率は7割を超えています。
主題材料効果
実はこの問題、先の4枚カード問題と全く同じ形式です。対応付けてみましょう。
甲さん=E、乙さん=Z、丙さん=6、丁さん=7
どうして難しさが違うかというと、アルファベットと数字のときの確証バイアスで「母音 = 偶数」となったのをお酒問題に適用すると、
「お酒を飲んでいる」=「20歳以上」
となり、「何かを飲んでいる25歳」の丙さんが、お酒を飲んでいるはずだからそれを確かめる、ということに相当します。
でも、お酒問題ではそうならなかったのは、20歳以上だと何を飲んでもよいことをよく知っているから、それを確かめなくてよいと気付いたのでした。
一方、4枚カード問題では、裏面が偶数だったときに、おもて面が奇数でもよいことに気付くには少し考える必要があったのです。
このように、よく知っている状況では、誤解が少なく判断を下せるというのを心理学では「主題材料効果」と言います。
要は、よく馴染んだ日常的な状況設定だと間違わずに考えやすいということなのです。
新しい商品やサービスの説明をする際には、馴染みのある分かりやすい言葉で説明しましょう、とよく言われますが、それは、お客さんの脳を誤誘導しかねない確証バイアスを引き起こさないよう、より簡単に考えられるようにしてもらうため、というとても重要な意味があったのですね。
どうしても新しい用語を使う必要があるときは、たとえ話なども加えながら、しっかりご説明して馴染んだ言葉で伝えるようにするとよいでしょう。
(了)
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