甘くみてはいけないBGMの効果

投稿者: | 2021年10月21日

 

音や匂いで無意識に心が動かされる

お昼を食べようと街を歩いていたら、カレーの匂いがしてカレーが食べたくなった。

ショーケースのトンカツと目が合って食べたくなった。

そんなこと、ありますよね?

嗅覚刺激や視覚刺激に誘導されてしまっているのですね。

実は、聴覚刺激である音にもそれに負けないくらいの力があるというお話を。

例えば、音楽は感情を揺さぶり高めてくれます。

映画やドラマでは、嬉しい場面、悲しい場面、士気が高まった場面など、それぞれに相応しい音楽が効果的に使われています。

音楽ではなくとも、水が流れる音などの自然音で心安らぐこともありますね。

音楽が選択や記憶、さらに、財布のひもまで左右することを示す論文が報告されました。

オーストラリアの小売に関する専門誌、Journal of Retailing です。

 

BGMが無意識レベルで選択や記憶に影響を与える

大学生の男女120名を4つのグループに分けて、それぞれ別の部屋に入ってもらいます。

学生は、料理のメニューを与えられて、5分ほどで注文したい一品を選びます。

そのメニューに書かれているのは、アメリカ料理10品、中華料理10品、インド料理10品の、計30品。

各料理には写真が付けられていて、どんな料理かが分かるようになっています。

4つのグループに分けたのは、BGM(バックグラウンドミュージック)の影響を調べるためで、

 グループ1: アメリカの音楽

 グループ2: 中国の音楽

 グループ3: インドの音楽

 グループ4: BGMなし

実験の結果、アメリカの音楽をかけるとアメリカ料理を、中国やインドの音楽でもそれぞれ中華料理とインド料理を選ぶ傾向にあったそうです。

また、メニューにあった料理を思い出す記憶テストでも、同様にBGMの影響が強くみられたとのこと。

事前に記憶テストをするとは伝えていません。

ただのBGMですが、選択や記憶に無意識のレベルで影響を与えるものなのですね。

 

BGMが買いたいものを決め、お財布のひもを緩める

お店にかかっているBGMによって、買いたくなる商品や払える金額も変わるのでしょうか?

今度は、大学生の男女180名の学生を3つのグループに分けて、BGMはカントリーミュージック、クラシック、音楽なしとします。

学生は、商品の画像を見て、個々の商品に払える最高金額を答えます。

用意された商品は、日用品10品(氷、咳止め薬、電球など)と、自分らしさを表現するアイテム10品(香水、グリーティングカード、イヤリングなど)。

結果はどうだったでしょうか?

BGMがカントリーミュージックの場合、日用品に高値を付け、クラシックのときは、香水などに高値を付ける傾向があったそうです。

つまり、庶民的な音楽だと日用品を、高級感のある音楽だと自分らしさを表現するアイテムを無意識に買いたくなると考えられます。

高級車のCMに、クラシック音楽がよく使われるのは、この効果を狙っていると言えます。

なお、論文著者の North 博士は、BGMがワインの味に影響することを示した論文もあり、異なる感覚種間の関係を調べている心理学者です。

 

BGMは視覚や嗅覚より効果的な面も

聴覚情報には、ずっと刺激を与え続けられる特徴があります。

視覚刺激でそれをしようとすると、視線を釘付けにしないといけません。

匂いの嗅覚刺激はずっと刺激を与え続けられますが、聴覚より「慣れ(順応)」が起こりやすいため、効果は弱くなってしまいます。

また、匂いには思ったほど多様性がないのも使いにくいところ。

一方、BGMには多様性があり、音楽でなくとも、自然音や物音も使えますね。

甘くみてはいけないBGMの効果、のお話でした。

 
【原論文】

North AC, et al. (2016) “Music congruity effects on product memory, perception, and choice” Journal of Retailing 92: 83-95. doi: 10.1016/j.jretai.201506.001.

 
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では、また!

 

(了)

 

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