美しいものを見たときの脳活動
芸術作品を見ると、いろいろな感情が呼び起こされます。
モネの鮮やかな色彩に、美しい、、と心奪われたり、
ゴヤのサトゥルヌスに、むごい、、と目をそらしたくなったり。。
以前、本ブログで美しいと感じているときに特徴的な脳活動があると書きました。
武永隆の脳ブログ「本当に美しいと感じてる? 脳を見られたらバレます」(2016/6/25)
島皮質や扁桃体がより強く活動するということでした。
ご想像の通り、美しいという感覚と脳活動との関係を実際に調べるのは大変です。
実験条件によって結果が変わりやすいのですね。
それでも、研究者は何とかして普遍的な現象を探そうと努力します。
例えば、美しいものを見たときに活動する脳領域として、眼窩前頭皮質も知られています。
目玉を収める窪み(眼窩)の上にあるので眼窩前頭皮質といいます。
脳を取り出したときに、前側の底に当たる部分です。
醜いものを見ると脳の運動野も反応する
芸術作品を見て呼び起こされる感情は、美しさだけではなく、醜いものや悲惨なものもあります。
慶應義塾大学の川畑先生らは、美しいと感じる絵画を見たときと、醜いと感じる絵画を見たときとで、脳活動がどう違うのかを fMRI という手法で調べました。
すると、美しいと感じるときには、やはり眼窩前頭皮質がやや強く活動していたそうです。
余談ですが、この実験結果が掲載された学術雑誌(Journal of Neurophysiology)は、業界ではかなりお堅い雑誌なので、このようなタイプの論文が掲載されて、ちょっと意外な印象です。
話を戻しまして。
この眼窩前頭皮質は、絵画だけでなく、音楽を聴いて美しいと感じたときにも活動が強まることが他の研究で分かっています。
ところが、この眼窩前頭皮質。
醜いと感じたときにも活動するという報告をしている研究者も少なからずいて、議論の渦中にあります。
先の川畑先生らの論文で面白いのは、醜いと感じるときに、運動野もやや強く活動していたこと。
運動野というのは、手足を動かす指令を出す役割ですから、美しさや醜さとは無縁のはず。
不思議ですよね。
論文の著者らは、醜いという感覚から逃避や防御の意識を誘起させたのかもしれないと言っています。
なるほど、そういうのもあり得ますね。
他の研究者も、ネガティブな情動の情報に対して運動野が活動を高めるという報告をしているようですから、まんざらもなさそうです。
美しい絵画を見ているとき、運動野の活動がやや弱くなっていたのかも
ここから、川畑先生らのデータを少し細かく見て、私(武永)なりの分析をちょっと加えてみましょう。
基本的に、脳活動を fMRI などで画像で見る場合は、対象とする情報処理をしているときの脳活動と、そうでないときの脳活動を比較することで、対象とする情報処理に関わる脳領域を探します。
この「そうでないとき」をコントロール条件とか、統制条件とか言います。
例えば、手を動かす脳領域がどこにあるかを知りたければ、手を動かしているときと、手を動かさないようにしているときとでの脳活動の差を取ればよいわけです。
簡単な例を挙げましたが、実際の実験ではコントロール条件はとても慎重に設定します。
川畑先生らの論文では、美しいときの眼窩前頭皮質の活動は、美しい絵画を見ているときと、美しくも醜くもない中立的な絵画を見ているときの差で強い値が検出されています。
では、醜いときは?
醜い絵画を見ているときと、中立的な絵画を見ているときとでは顕著な差が得られませんでした。
運動野の活動がやや強いことが分かったのは、醜い絵画を見ているときと、美しい絵画を見ているときの脳活動で差を取ったとき。
つまり、考えられるのは、美しい絵画を見ているときに「運動野の活動がやや弱くなっていた」ということ。
てことは、美しいと感じているとき、ある意味、呆然となって、動きが抑制されたとも考えられるわけです。
今回は、芸術と脳の運動野の意外な関係についてのお話でした。
【原論文】
脳科学で生活にうるおいを!
では、また!
(了)
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