脳梁の太さに男女差はありません
本論に入る前に、脳梁(のうりょう)の男女差についてちょっと書いておこうと思います。
右脳と左脳は、脳梁でつながっています。
・左脳は論理的に処理し、右脳は感情的に処理する
・女性の方が感情的になりやすいのは、右脳と左脳をつなぐ脳梁が太いから
なんてことも言われているようです。
もちろん、「左脳は論理的に処理し、右脳は感情的に処理する」からして間違いです。
さらに、脳梁の太さなど、脳の見た目のスケールでの男女差がないことはちょっと前の論文でも報告されていて、もう決着済み案件となっています。
だからと言って、男性の脳と女性の脳が全く同じだとは思いません。
もっと細かく見たら違いもあるでしょうし、それでも分からないくらいの機能的な差はあるのではないかと考えます。
脳梁が右脳と左脳をつなぐのを明らかにした実験
脳梁の男女差は置いておいて、脳梁の役割が分かった経緯を見てみましょう。
昔は、ただ単に支えているだけで、右脳と左脳の情報を相互に送り合うような機能的なつながりはないのでは?という見方もありました。
そこで、機能的なつながりの有無を調べたのがマイヤーズ。
1956年の論文です。
Myers RE (1956)
“Function of corpus callosum in interocular transfer”
Brain 79: 358-363.
実験では、画面に▲が表示されたらあるボタンを、□だったら別のボタンを押すと報酬が得られるような簡単な課題を与えています。
実際にはネコを使った実験なのですが、トレーニングで試行錯誤すると、ネコはルールが簡単に分かり課題をこなせるようになります。
まず、右目を目隠しして、左目だけでトレーニング。
出来るようになったところで、今度は左目を目隠しして右目だけで挑戦すると、ネコは試行錯誤することなく、すぐに出来ました。
そんなの当たり前!と思いましたか?
左目だけでトレーニングした後に右目だけですぐできた理由
左目でトレーニングした後に、右目だけですぐできた理由を、ちゃんと脳科学的に説明するのはそう簡単ではありません。
先日書いた視覚の情報伝達を理解している必要があります。
図形を視野の真ん中で見れば、図形は右視野と左視野にかかっているので、片目で見ても、網膜の右半分と左半分に映っていますから、右脳と左脳の両方に視覚情報が行っているワケです。
つまり、片目でトレーニングをしても、右脳も左脳も同じ視覚情報を受けて試行錯誤で学習することになるので、トレーニングでは見えていなかった方目だけで見ても課題がすぐにこなせるのです。
ちなみに、先日書きましたように、右目でも左目でも、網膜の右半分は右脳に、左半分は左脳に情報が送られるので、左目網膜の右半分が右脳につながる神経線維と、右目網膜の左半分が左脳につながる神経線維は交差することになり、その交差を視交叉と言うのでしたね。
以下でご確認ください。
で、ここからが問題。
その視交叉でクロスする神経線維を前から後ろに切って、左目だけでトレーニングすると、どうなるでしょうか?
見えている左目では、右視野の視覚情報が網膜の左半分に映って左脳に送られますが、視交叉が切られているため、網膜の右半分に映った左視野の視覚情報は右脳に送られません。
つまり、視覚情報は左脳だけに送られ、左脳だけでトレーニングすることになります。
左目だけで見るトレーニングを終えて、今度は、左目を目隠しして右目だけで試させます。
左視野の視覚情報は、トレーニングで使われていない右脳に送られるだけになります。
どうなったと思いますか?
結果は、すぐに出来ました。
トレーニングしていない右脳で、どうして課題がすぐに出来たのでしょうか?
これは、右脳と左脳で情報がつながっていないとあり得ないことです。
視交叉も脳梁も切ってみると…
右脳と左脳の情報をつなげているのが脳梁なのかを確かめるには、その脳梁を切ってみたらよいですね。
そこで、視交叉を切った上に、脳梁も切った状態で、先ほどと同じように、左目でトレーニングが終わってから右目で課題をやらせてみました。
すると、今度は当てずっぽうのレベルでしかできませんでした。
ということで、脳梁はただ単に右脳と左脳をつないで支えているだけではなく、情報を相互に送り合うような機能的なつながりがあると分かったのです。
脳梁が右脳と左脳をつなげているのを知っている方は多いと思いますが、その経緯を知るのは面白いですし、より深く理解できますね。
脳科学でビジネスライフを快適に!
では、また!
(了)
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