今朝(2017/2/24)、一瞬でしたが、金正男氏暗殺に使われたのは、パラチオンメチルという毒物だというニュースに流れました。
その後、すぐにマレーシア警察の発表として遺体から神経剤VXが検出されたとの報道がありました。
なぜ、パラチオンメチルという名前が出て来たのか分かりませんが、どうやら、VXの可能性が高いようです。
VXについては、先日ブログ(武永隆の脳ブログ「金正男氏暗殺?に使われたVXガスとは何か」)で書きましたので、そちらをご覧ください。
でも、とりあえず名前の出たパラチオンメチルって何でしょうか?
ということで、パラチオンメチルについて簡単に書いてみましょう。
冷凍餃子農薬混入事件
今から9年前。
2008年の2月、スーパーで売られていた中国製の冷凍餃子から殺虫剤などが検出されました。
その中に含まれていたのが、パラチオンメチルやパラチオンという農薬。
昔は日本でも使われていた農薬ですが、ヒトへの毒性が強いため昭和47年に農薬登録が失効し、国内での使用は禁止されています。
パラチオンメチルは、学術的には、英語表記の読み方である、メチルパラチオン(Methyl Parathion)が使われます。
メチルパラチオンは、パラチオンに構造的によく似ています。
メチルパラチオンの化学式は、C8H10NO5PS
パラチオンの化学式は、 C10H14NO5PS
メチルパラチオンというと、パラチオンにメチル基が付いたもののように思えますが、そうではありません。
メチルパラチオンは、パラチオンのメチル基(CH3)を水素(H)に置き換えたものです。
メチルパラチオンとパラチオンは、化学的な性質もよく似ているので、以下では、メチルパラチオンと書かれていても、パラチオンと書かれていても、同じことだと思ってください。
メチルパラチオンの毒性の強さ
化学式を見てお分かりの通り、メチルパラチオンは有機リン化合物の仲間です。
有機リン化合物には、神経に対する毒性があるものが多く、それらは神経ガスと呼ばれます。
サリンやVXガスもそうです。
メチルパラチオンの毒性はVXガスよりは弱いようです。
致死量で比較してみましょうか。
致死量が少ないということは、少ない量で死に至らしめることができるということですから、毒性としては強いことになります。
ラットでの半数致死量(LD50、投与した動物の半数が死亡する量)で比較すると、
メチルパラチオン:18~50 mg/kg(0.018~0.05 g/kg)
VX:15 μg/kg(0.000015 g/kg)
このように、VXの方が1,000倍くらい強いことになります。
ラットでの致死量をそのままヒトには当てはめられませんが、まあ、VXの方が強いということです。
体内に入るまでと入ってから毒性を発揮するまで
メチルパラチオンの蒸気圧は、0.97 x 10-5 mmHg (20℃)ですから、ほとんど揮発しません。
VXも揮発性が低いです。
つまり、空気中を漂って害を及ぼすことはほとんどないので、地下鉄サリン事件のように、袋詰めして傘で刺して破っただけではあのようにはなりません。
直接、体内に入れる必要がありますが、経皮吸収(皮膚からの吸収)されるようなので、その液体がかかるだけでも危険です。
メチルパラチオンが体内に入ると、分子を構成する硫黄(S)が酸素(O)に置き換わり、パラオキソンになります。
このパラオキソンが毒性を発揮します。
パラオキソンを直接投与すると、毒性は一気に10倍(ラットでのLD50(半数致死量):1.8 mg/kg(0.0018 g/kg))になります。
神経への毒性はVXやサリンと同じ
パラオキソンの作用機序は、サリンやVXと同じで、アセチルコリンを分解するアセチルコリンエステラーゼを阻害してしまいます。
アセチルコリンは神経伝達物質で、ニューロンとニューロン、もしくは、ニューロンと筋細胞の間のシナプスで放出され、情報伝達を担います。
神経伝達物質は、情報が伝達されたら用がなくなるので、すぐに壊されたり、ニューロンやグリア細胞に回収されたりします。
パラオキソンは、アセチルコリンの分解の邪魔をするので、シナプス間隙にアセチルコリンが漂い続けることになります。
伝達先が筋細胞ですと、筋細胞が収縮しっぱなしですから、体が動かないだけでなく、心拍も呼吸も止まって死に至るのです。
もう少し詳しい作用機序や解毒については、似た作用機序を持つVXについて書いたページ(武永隆の脳ブログ「金正男氏暗殺?に使われたVXガスとは何か」)をご覧ください。
パラチオンメチルという毒性についてでした。
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では、また!
(了)
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