エコロケーション
エコロケーションをご存知でしょうか。
コウモリが暗い洞窟を飛べるのは、このエコロケーションのお陰です。
エコロケーション(echolocation)のエコは、エコロジーのエコではなく、音の反射(echo)のこと。
そして、ロケーションは、位置を定めること。
ということで、エコロケーションは反響定位と訳されます。
自分が出した音が何かに反射して戻って来た音を分析することで、前方の様子が分かります。
ですから、コウモリに目隠しをしても飛べるのに、耳をふさぐと飛べなくなります。
超音波の方が指向性がよいので、コウモリは超音波を使っていますが、ある夜行性の鳥は、人が聞こえる音波をエコロケーションに使い、うるさいそうです(笑)。
これを水中でやっているのが、イルカなど一部のクジラ類。
魚群探知機のようにエサを探したり、仲間との通信に使っているようです。
イルカは音を「見て」いる!
ところで、耳で受け取った音情報は、聴神経によって脳の側頭葉にある聴覚野に送られて処理されます。
同じように、眼で受け取った光情報は、視神経によって、脳の後頭葉にある視覚野に送られます。
聴覚野や視覚野というのは、脳の表面の大脳皮質にあるのですが、そこに情報が送られるまでに、脳の深部にある視床(ししょう)という核が情報を中継するようになっています。
このほど、アメリカはエモリー大学のバーンズ博士らがイルカの脳を調べたところ、耳で受け取った情報を送る聴神経が届いた先の視床からは、聴覚野(A1)だけではなく、眼で受け取った情報を処理する視覚野(V1)にもニューロンを伸ばしていることが分かったそうです。
※ A1:一次聴覚野、V1:一次視覚野
つまり、音の情報を視覚野にも送って、「見て」いることが分かったのです。
イルカのエコロケーションでは、聴覚野だけでなく視覚野でも処理されているということ、さらに、脳に入った音情報がかなり早い段階で視覚野に送られ、処理されていることが分かったのです。
繰り返しが作る新たな神経ネットワーク
このイルカの脳の神経ネットワークは、進化の過程で獲得されたものですが、もっともっと短い期間で新たに獲得することもあります。
例えば、ヒトでも視覚障害者の中には自分で舌打ちの音の反響で周りの状況を把握できる方がおられるそうです。
そして、その方の脳では、視覚野が活発に活動していたことも報告されています。
つまり、経験を通して、耳で受け取った音情報を視覚野でも処理できるようになったのですね。
自分に必要な情報処理機能を自発的に獲得する脳の柔軟さはスゴいです。
新たな情報処理機能の獲得は、新たな神経ネットワークの獲得のことです。
これは私たちにも普段から起きていて、「学習」という、新たなことを覚えたり、身に付けたりするのは、この新たな神経ネットワークの獲得に他なりません。
新たな回路は、そう簡単にはできません。
時間をかけて、何度も何度も同じ回路が使われることで、回路が強化されていきます。
自分が新しいことを身につけるには倦まず怠らずじっくり取り組むことが大切なのです。
【参考論文】
Gregory S. Berns, et al. (2015)
“Diffusion tensor imaging of dolphin brains reveals direct auditory pathway to temporal lobe”
Proc Biol Sci. 2015 Jul 22; 282(1811). pii: 20151203. doi: 10.1098/rspb.2015.1203.
http://rspb.royalsocietypublishing.org/content/282/1811/20151203
(了)
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